デンシャ

電車とは本来「デンシャ」という名前の、電気を主食とする生き物である。

デンシャは身体がとても大きく、毎日ほぼ同じ時間に、同じコースを高速で移動するという特徴を持つ。
そのため人は移動手段として、この生物を利用することを考えた。
「電気を食べる、車のような役割を果たす生き物」ということから、「電車」という漢字が当てられるようになったのもこの頃である。

デンシャの走るコースが誰にでも分かるよう、人は線路を作り、またデンシャが動きを止める場所の目印として、各地に駅を作った。
つまり駅や線路が有ってデンシャが動くのではなく、デンシャの移動する軌道上に、後から駅や線路が建設されたのである。
駅や線路という目印が無ければ、誤ってデンシャの軌道上に立ち入り、デンシャと人との接触事故が起こってしまうかもしれない。
デンシャはその大きな見た目からは想像できないほど繊細な生き物で、人や動物にぶつかるとすぐに立ち止まってしまう。
また、個体によっては非常に雨風に弱く、すぐに動かなくなってしまうものもいる。
このときにできる限り素早く活動を再開させるのが、運転士の役割である。
つまり、運転士とは本来、調教師と呼ばれるものであった。
現場で直接デンシャを操る調教師と、デンシャの行動パターンを研究・把握する研究者が、主に「電車」の運営に関わる職業である。
「電車」という輸送手段はこれら2つの職業の人々によって支えられている。

駅や線路は本来、「人とデンシャとの接触を少なくするための目印という役割」で設置されたものだが、この目印の存在が、逆に事故の発生を増加させているのではないかという見方もある。
これまでの研究によってデンシャがいつ、どこを通るかという情報はほぼ正確に把握・周知されているため、現在では故意にデンシャの軌道上に立ち入ることが非常に容易となってしまっている。
デンシャの動きを止めることで輸送機関を混乱させ、都市機能を停止させる犯罪行為の横行が問題となっている。
その発生件数の多さから、同じ思想を持った人々による宗教団体あるいはテロ組織の存在が疑われているが、その正体は未だ不明である。
このような行為は人間だけではなくデンシャに対しても非常に悪質なものであるため、早急な対応が必要である。